人気ブログランキング | 話題のタグを見る

出村和彦「アウグスチヌス 心の哲学者」岩波新書

アウグスチヌスから影響を受けた哲学者は多い。パスカル、フッサール、ヴィトケンシュタイン、ハント・アーレント等、特に著書「告白 全13巻」がその後のキリスト教に与えた影響は数知れない。心を心臓として記述しハートマーク=愛となっていることもこのアウグスチヌスに由来している。アウグスチヌスが生まれたのは354年ローマ帝国末期、北アフリカのタガステという地だった。キリスト教もまだその形を完成できていない時期だ。彼は小作民の息子として生まれ、敬虔なカトリック信者の母親モニカから大きな影響を受けた。通っていた文法学校では修辞学等を学び、成績は抜きん出ていたが、経済的な理由で学校に通えない時期もあったらしい。そういう時期に仲間と梨畑から梨を盗んだことが大きな罪悪意識につながり、心に関心をもつきっかけになった。盗みという罪悪行為に対する意識より仲間との連帯を愛したという。人間の弱さ、心のあり方にその後焦点を置いて物事を探求するようなる。もちろん恋愛や友情、死別も大きな影響を与えている。

人間は困難な状況に追いやられると心の不調和をきたす。誰もがそういう弱さをもっている。その

人間的な弱さの裏返しとして、徹底した聖書研究と哲学探求に没頭することになる。その結晶が「告白」につながっているのだ。彼自身はキケロから大きな影響を受けている。簡潔にいうなら利他心と利己心のせめぎあいの中で如何に愛を実現していくかということだが、そのプロセスが何よりも重要なのだ。俺は最近、どちらかというと禅思想のほうに共感するのだが、西洋思想の根底にアウグスチヌスは大きな位置をしめいているだけに、一度は「告白」を読む必要があるだろう。


by oritaraakan | 2018-01-21 23:12 | 読書ログ  

<< 和多利月子「明治の男子は星の数... 鈴木大拙「鈴木大拙全集 第1巻... >>